本論『ものまねボイトレ』
第7章は、自分の「ふりはば」を知るためにモノマネをおこなう、といった内容を述べています。
第7章「モノマネは似てなくていいの?」
声質を良くするためにおこなうモノマネは、ぜんぜん似ている必要はないです。
まぁ、どうせやるなら似てるにこしたことはない、っていう考え方もありますけど、基本、似ているかどうかは問題ありません。
似せる必要もないのに、じゃあ何のために、わざわざモノマネなんかやるのか?
それは、「ふりはば」を知るためなんです。
前章で申し上げたとおり、ぼくたちは歌い方を教わってきていません。
ですから、正しい発声法を知りません。
ちなみに、この場合の「正しい」とは、その人にいちばん適した声で歌うことを意味します。
クラシックの教育的に正しい、といった意味ではありません。
あるいは「J-POPの正解」、つまり、こういうふうに歌えばJ-POPの世界で「売れる」という意味でもありません。
その人にいちばん合った声質で歌うことこそ、ぼくがもっとも大事にしていきたいことなのです。
この、自分にいちばんあった声質を見つけ出すために、ぼくはモノマネを有効利用したいと考えているのです。
さて、ぼくたちは正しい発声法を知らずに育ちました。
ですので、自分の真の歌声を知っている人は、かなり少ないです。
たとえば、声域です。
声域、つまり「レンジ」ですね。
いちばん低く出せる音が何の音で、いちばん高く出せる音が何の音か、あなたは認識できているでしょうか?
たとえば、最高音を知るためには、限界以上に高い音を出してみる必要があります。
とうぜんに限界以上の音は出せません。
それでも何度も何度も試行錯誤をくりかえすのです。
そうしてようやく、「あぁ、この音が自分の最高音なのか…」と認識できるのです。
これが、つまり、「ふりはば」です。
フルスイングして到達できる位置。
このプロセスを経ずして、自分の「ふりはば」を知るすべはない、のですから。
似たような話は、身体操作においては、よく聞くことだろうと思います。
たとえば「股わり」なんかがそうですよね。
一度や二度の開脚で、「自分はカラダが固いんだ」なんて思い込んじゃダメです。
風呂上りにでも何度も何度もストレッチして、それを日常化して、ようやく「自分の脚はここまでひらくんだ」と思うことができるのです。
新体操の選手とか、もれ聞く話では、やっぱ壮絶らしいですからね。
歌だって、おんなじです。
ところが、ところが、です。
正しい発声法を知らずに、このプロセスを経たところで、無意味な場合があったりします。
自分の、本当の「ふりはば」ではない可能性があるからです。
たとえば、Mr.Childrenさんの歌は、男性が地声で歌うには、やや高すぎる音が多く使われています。
「自分にはムリだ、出せない」と考えている男性は、きっと、たくさんいることでしょう。
ところが、ふつうに歌ったら自分にはムリだと考えている人でも、ミスチル桜井さんのモノマネをして歌ってみたら、意外や意外、あっさり高音が出た、という人が存在するのです。
これは、ミスチル桜井さんの発声法に、高音を出しやすくする「秘訣」といったものが含まれているからなのですが、その点について今は割愛します。
理由はどうであれ、モノマネをすることで、今まで普通に歌っていたのでは出せなかった高音が、出せるようになるのです。
そういうケースが存在するのです。
これは、なにも「高音」だけの話ではありません。
たとえば、「○○さんの△△って曲は、息継ぎする所がないから、普通に歌うと息がもたなくて歌えない」という場合でも、その人のモノマネをしてみたら、あっさりと息がもった、という場合が起こりえます。
当人の発声法に、息をもたせる「秘訣」が含まれているからです。
そのほか、ビブラートが苦手なんだけど、ホニャホニャさんのモノマネをしてみたら、簡単にできた、とか。
コブシが入れられるようになった、とか。ファルセットが楽に出るようになった、とか。
たっくさんあります。
普通の歌い方では今までできなかったことが、モノマネをしてみたらあっさりできた、という例は、たっくさんあるのです。
これが、本当の「ふりはば」なのです。
ぼくたちは正しい発声法を知らずに育ちました。
ですので、自分の本当の歌声を知っている人は、かなり少ないです。
普通に歌っているつもりになってても、それでは足りない可能性があります。
自分の本当の能力を開花させきれていない、といったケースがあると考えられるのです。
だから、モノマネをするのです。
もちろん、モノマネ以外にも方法はあります。
たとえば時間やお金がたっぷりあったら、いちからボイストレーニングを受けて、自分の声を探し出すことも可能でしょう。
でも、現代人は忙しいので時間がないですし、ほかのことにもお金を使いたいですよね。
歌声を良くすることだけに、そんなにリソースを投下していられません。
その意味で、モノマネは費用対効果のすぐれた方法論だ、とぼくは考えています。
と言いますか、学習の基本は模倣です。
「学ぶ(まなぶ)」の語源は「真似ぶ(まねぶ)」だとも言われています。
基本というか、王道と言ってもいいかもしれません。
モノマネは、ロイヤルロードなのです。
声練屋やすべぇ(こえねりや・やすべぇ)
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