『ミックスボイス』とは何か?
ミックスボイスは、概念があいまいなため、いろいろな説が語られていますよね?
すこし、ぼくなりに「ミックスボイスとは何か?」をまとめてみたいと思い、このWebページを書いてみました。
大別してミックスボイスには2つある!
ミックスボイスは諸説紛々です。
定義に確たるものが存在しないため、各自がめいめい自分なりの「ミックスボイス」を思い浮かべて語っています。
しかし、他人にとっては、別のミックスボイスをイメージするため、話がかみ合わない、なんてことが往々にして起こります。、
そこで、ミックスボイスをまとめてみたいと思います。
大別してミックスボイスには2つあるようです。
もちろん、他にもいろいろあるのでしょうけど、ザックリわけると2つみたいです。
1:裏声と地声とをつなぐ、なめらかな声。
2:特別なやり方によって出す、高音の声。
昔から歌をやってきた古い人間は、ミックスボイスと聴くと、どうやら「1」のほうをイメージするらしいです。
「換声点をなくした声」とも言って、昔から、裏声と地声とをなめらかにつなぐ声については、それなりに考察されてきた歴史があります。
このため、歳をとった人間ほど、ミックスボイスに対するイメージは、こっちにになりやすいのです。
ところが、最近の若者は、ミックスボイスを「2」の意味で使うことが多いです。
特別なやり方で出す、とても高い声、のことですね。
しかし、「2」の意味のにおける発声法の理論は、いまだ確立されていません。
歴史がないのですね。
最近のシンガーたち、めいめいが、独自に発見し、開発し、改良しつつある段階のため、ロジカルな方法論が確立されていないのです。
ロジカルな方法論が存在しないため、感覚的なやり方、といったものが流布します。
WebページやYouTubeに、ボイトレ講師や歌好きの人たちが、めいめいの感覚を解説しています。
百家争鳴…。
このため、同じことを言っているのに、別々の感覚の持ち主では、話が合わなくなります。
かみ合わない不毛な議論が続くのです。
まぁ、しかたないです。
人は、それぞれ感覚が違うものですからね…。
でも、いつまでもかみ合わない議論をくり返しても進歩しませんから、すこし論理的にミックスボイスを考えてみましょう。
科学的な考察を加えたいと思います。
ミックスボイスは「加圧ボイス」だ
「2」の意味のミックスボイスを、ぼくは「加圧ボイス」と呼んだほうがいいのではないか、と考えています。
そっちのほうが実態をあらわしていると思うのです。
でも、まぁ、ぼくが命名しても、おそらく普及しないでしょうから、やっぱり「ミックスボイス」と呼ぶことにします…。
「2」の意味のミックスボイスは、特別な発声法をもちいています。
おもに、アニメなどの声優さん、YouTubeなどで活躍されている「歌い手」さんといった方々に、多く使用されている発声法です。
その秘訣は…?
ズバリ! 呼気に圧力を加えることです。
おもちゃで、風船の出口に笛の付いたものをご存知ですよね?
風船がしぼむ空気圧で、ブーーーっと鳴りつつ、最後に「ブゥ」っとマヌケな音を放って鳴りやむ、あれです。
むかしは、ドリフターズのコントで多用されていましたから、あるていど以上の年代の人なら、必ず知っていますよね。
むしろ若い方のほうが、ご存知かどうか…。
ご存知ない方は、ふくらませた風船の口に、適度な大きさの笛をつけて実験してみてくださいね。
はじめは風船がパンパンのため、いきおい良くブーっと笛が鳴ります。
高い音です。
ところが、最後の最後、風船がしぼみきる直前に、急激に低音になります。
この、急に「ブゥ」っとマヌケな音を出して終わるところが、おもしろいんですよね。
さて、どうして笛は低音になるのでしょうか?
同じ笛なのに?
そう。
風船の中の空気圧が違うからですよね。
同じ笛でも、高い圧力を加えると、高音になるのです。
人間の声帯も同じなのですよ。
呼気に圧力をパンパンに加えると、同じ声帯でも、高い声が出るのです。
これが、「2」の意味のミックスボイスなのです。
ぼくが「加圧ボイス」って呼んだほうがいいんじゃないか、って思うゆえんです。
この呼び名は普及しないだろうなぁ…。
「コンプレッション・ボイス」とか、「プレッシャー・ボイス」とかでも、駄目かな…?
「声門閉鎖」は、呼気に圧力を加えるための方法
YouTubeなどでミックスボイスのやり方を教える方々は、よく「声門閉鎖するべし」と言います。
「声門閉鎖」とは、声帯を閉じること、ですよね。
これは、呼気に圧力を加えるための、もっとも簡便な方法が声門閉鎖だから、です。
人間の肺を、水を放出するホースにたとえるなら、ホースの先をしぼる方法論ですね。
庭への水まきなど経験のある人なら、わかりますよね。
ホースの先をしぼると、水がいきおい良く飛び出すようになります。
これは、ホースの中の圧力が高まるから、ですよね。
出口をせまくすると、中の圧力は高くなるのです。
人間の肺も、出口をせまくすると、圧力が高くなります。
ですので、声門閉鎖をすると、声が高くなるのですね。
声門閉鎖をすると、俗に言う「エッジボイス」といったものになりやすいです。
あ゛、あ゛、あ゛って声です。
ギラギラ、ボツボツ、とでも形容するのでしょうか、整数倍の上音が声にかぶさってくるようになります。
ボーカルフライや、平井堅さんの出だしの声、お笑い芸人・出川哲郎さんの「やばいよ、やばいよ」の声、などが例でしょう。
ミックスボイスのやり方を教える人の中には、「エッジボイスをおぼえろ」と言う人がいます。
しかし、ここまで述べてきたとおり、これは順序が逆です。
声門閉鎖をするからエッジボイスが出るのです。
先にエッジボイスをやろうとすると、肝心の「呼気の圧力を高める」という目的を忘れてしまいます。
カンの良い人なら、自力でわかるようになるかもしれません。
しかし、そうでない人は、永遠にわからないことでしょう。
「ミックスボイスを出すためには、まずエッジボイスをおぼえましょう」といった解説では、混迷を深めるだけです。
ずっと迷子のままでしょう。
あるいは、また、「ミックスボイスを出すには、鼻腔共鳴させるべし」と言う人がいます。
これも順序が逆なのです。
人間の声帯は、 V字型になっています。
胸側が「V」の下側、背中側が「V」の上側です。
この声帯を閉めようとするに、V字の根元を閉めるより、V字の上を閉めたほうが楽ですよね。
テコの原理を持ち出すまでもなく。
ピンセットとか、糸切りバサミとか、イメージしてみてください。
根元よりV字の上のほうが楽々閉められます。
人間の声帯も同じなのです。
声を前方に出そうとすると、呼気は「V」の根元を通るイメージとなります。
V字の根元は閉めにくいのです。
鼻の奥に呼気を流そうとすると、呼気は「V」の上のほうを通るイメージとなります。
声帯を楽に閉められるようになるのです。
だから鼻腔共鳴するのです。
鼻の奥に呼気を流すからです。
これによって呼気に圧力を加えることが容易になります。
逆ではありません。
あくまで容易になるだけであって、鼻腔共鳴は、ミックスボイスにおいて、必須アイテムではないのです。
ところが、これを知らずに「ミックスボイスを出すには鼻腔共鳴が必要だ」という解説をうのみにすると、またまた迷子になります。
ミックスボイスの森で、右往左往することになるのです。
これらは一例ですが、このように、ミックスボイスには諸説が紛々としていて、迷子にさせるような言説が多いです。
気をつけてくださいね。
ミックスボイスは健康に悪い!
ミックスボイスは特別な発声法です。
今まで出せなかった高音が、いとも簡単に出せるようになります。
地声だと、ぼくは「hiC」がギリギリです。
ちょっと練習をサボると「hiA」でも苦しいぐらいです。
ところがミックスボイスだと「hiF」が地声感覚で出ます。
確かに、これは、驚異的です。
若い人たちが、こぞってミックスボイスを求めるのも、むべなるかなと思います。
しかし!
ミックスボイスは身体にダメージを与えます。
老体のぼくは、ミックスボイスで一曲歌うと、めまいがクラクラ、息が切れ切れ、しばらく吐き気がとまりません。
むちゃ健康に悪いです。
その理由を述べるのは、紙幅の関係で、はぶきます。
でも、本当です。
医学的に確かなことです。
中高年以降の方々は、けっしてミックスボイスなんかに手をださないほうがいいです。
若い方々は、ちょっとぐらい無理したって平気なことでしょう。
長い時間、練習したって、体調は変わらないかもしれません。
でも、いずれツケは回って来ます。
できることなら、他の方法で高音を出せるようにしたほうがいいと思います。
でも…。
年寄りの忠告なんて聞かないよね…。
それが「若さ」だもんね…。
(^^;